ほとんどの人が知らない抗うつ薬の真実とは
抗うつ薬ってどんな薬なのか?その効果、副作用などの注意点、種類について、ほとんどの人が知らない真実を説明します
抗うつ薬を長年服用している方でも、その性質、効果、副作用についてしっかり把握している人は多くありません。お医者さんに処方されたから、という理由だけで飲み続けているのです。
しかし、抗うつ薬の構造、効果、副作用などの実態については、正しい、体系化された情報はほとんどない、というのが事実なのです。あなたに、抗うつ薬に関する真実を知ってもらい、どう抗うつ薬と向き合うのか?という”指針”となるようにこれから解説していきます。
抗うつ薬とはどのような内容のくすりなのでしょうか?
現在、日本ではおよそ100万人がうつ病を患っていると言われています。その皆さんが毎日抗うつ薬を飲んでおられるわけですが、抗うつ薬とはいったいどのような内容の薬なのでしょうか?
長年にわたって抗うつ薬を飲んでおられる方でも、その内容についてきちんと認識をしておられる方はほんの一握りの方だと思います。大部分の方は、お医者さんから処方された薬だから、という理由でほとんど気にも留めないでお飲みになっておられるのではないでしょうか?
しかし、それはご自分の健康状態、特に脳の健全な状態を考えますととても無防備な行為と言わざるを得ないのです。一般的に薬には副作用はつきものですが、抗うつ薬をはじめとする向精神薬については特別に注意を払う必要があります。
それは、向精神薬は人間にとって最も重要でデリケートな器官である脳組織(神経細胞やホルモンなど)へ直接的に作用し、働きかける薬だからです。脳組織の解明は脳科学のめざましい発達に伴い、徐々に明らかになっては来ていますが、それは膨大な脳組織のごく一部分であり、まだまだ未知の部分がほとんどです。
今日まで抗うつ薬など向精神薬が脳内でどのように作用し、働きをして、どのような影響を及ぼしているかという正確なことはほとんど解明されていない、というのが現実なのです。抗うつ薬を理解する上で予備知識として認識しておくべき事が二つあります。
- 1.抗うつ薬は最初から抗うつ効果を目的に開発された薬ではない
抗うつ薬の歴史はヨーロッパで今から60年ほど前の1950年代に始まりましたが、最初は、結核の治療薬として開発された薬に気分を高揚させる作用が有ることがわかりました。
次に、統合失調症の薬として開発されたイミプラミンに気分を高揚させる作用があることがわかりました。全く別々の薬として開発された二つの薬は、気分を高揚させるという抗うつ効果が期待されることから「抗うつ薬」と呼ばれるようになり、その後その名称が定着していったのです。
つまり、何か特定のメカニズムがあるから抗うつ薬と呼ばれていたのではなく、とりあえず気分を高揚させる作用が有り、抗うつ効果が期待出来そうだから「抗うつ薬」と呼ぶことになっただけなのです。当時の医学レベルでは「何故、イミプラミンが抗うつ効果を持っているのか?」ということは分からなかったのです。
その後イミプラミンに似た化学構造式をもつ抗うつ薬が次々に発売され、これらの抗うつ薬は共通する化学構造式から「三環系抗うつ薬(TCA)」と呼ばれるようになった。そして1980年代後半までいろいろなTCAが発売されうつ病に対する薬物治療の中心的存在になっていきました。
イミプラミンは商品名「トフラニール」として、現在でも日本を含め世界で発売されています。
- 2.次に認識しておくべきことは「セロトニン仮説」という考え方です
人間の身体の中でどのような事が起き、どのような状態になってうつ病が発症するのでしょうか?
現在、これまでの生理学的、生物学的な研究から「脳の中の神経伝達物質のセロトニンやノルアドレナリンの量の減少がうつ病を引き起こしているのではないか?」と考えられており、この考えを「セロトニン仮説、またはモノアミン仮説」と言います。*「モノアミンとはセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質のことです。」
前述したようにイミプラミンの開発当時、「何故、イミプラミンが抗うつ効果を持っているのか?」ということは研究者の重要なテーマでしたが、いろいろと研究が進み様々な仮説が提唱されました。最終的にイミプラミンの三環系抗うつ薬の持つ「セロトニンの再取り込みを阻害する作用」が抗うつ薬の作用仮説として有力になっていったのです。
セロトニンは脳内の神経伝達物質の一つで幸福感を保ち、心のバランスを整える作用を持つとされ「幸せホルモン」などと呼ばれていますが、このホルモンが減ってくると気分の落ち込みが激しくなるといわれます。
三環系抗うつ薬は脳内で神経細胞がセロトニンを再取り込み(再吸収)する作用を妨げる効果があり、その結果、セロトニンの量が増えてうつ病が改善されるのではないか、と考えられるようになったのです。つまり、「セロトニン仮説」はセロトニンの再取り込み阻害作用のある物質がうつ症状を改善することから逆説的に提唱された仮説です。
この仮説に基づいて作られているのが第三世代薬のSSRIであり、文字通り「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」と呼ばれているのです。
しかしながら、1980年代後半から急速に進歩した分子生物学的研究によりモノアミン再取り込み阻害作用の無い物質でも抗うつ作用が確認されたことや、うつ症状の状態ではモノアミン自体が何故、減少してしまうのかという大本の原因をモノアミン(セロトニン)仮説では説明出来ないなど様々な不整合が判明したことから仮説の説明に限界が有るとの評価で、現在ではこの仮説を否定する考えが世界的に主流になっています。
世界的にこの仮説を否定する有力な論文が次々に発表されており、有力な研究機関であるNIMH(アメリカ国立精神衛生研究所)などもこの仮説を否定しています。つまり、SSRIなどの新世代薬はその根拠がほぼ否定されている仮説に基づいて作られている薬であるということです。
極論すると、脳内のセロトニンやノルアドレナリンなどの減少を是正することでうつ状態が多少改善される効果がありそうだという期待で、うつ病治療薬として使っているに過ぎないということです。
抗うつ薬の種類と分類
抗うつ薬は大きくは二つに分けられます。
一つは、古くから使われている「従来薬」といわれる第一世代の三環系抗うつ薬、第二世代の四環系抗うつ薬であり、薬の化学構造式の違いによって分けられます。
もう一つは「新世代薬」といわれる第三世代のSSRI,第四世代のSNRI,第五世代のNaSSAでありその薬がどのような作用を及ぼすかという作用機序の違いによって分けられます。
「従来薬」と「新世代薬」との大きな違いは、脳内の神経伝達物質のセロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを選択的に阻害するか否かにあります。三環系、四環系抗うつ薬は、神経細胞のシナプス間隙のセロトニンやノルアドレナリンの濃度を非選択的に増加させるだけでなく、他の神経伝達物質の受容体にも結合するため多様な副作用を引き起こす欠点があります。
「新世代薬」はセロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを選択的に抑制することによって、セロトニンやノルアドレナリンの濃度を増加させて神経伝達を活発にして抗うつ作用を改善しようとするものです。つまり、働きかける神経伝達物質を選択的に絞ることによって副作用の発生を抑えようとするものです。
日本で認可されている抗うつ薬(一般名20種類)※スルピリド含む
分類 | 一般名 | 商品名 | |
---|---|---|---|
第一世代 | 三環系 | イミプラミン | トフラニール |
トリミプラミンマレイン | スルモンチール | ||
クロミプラミン | アナフラニール | ||
アミトリプチリン | トリプタノール | ||
ノルトリプチリン | ノリトレン | ||
第二世代 | アモキサピン | アモキサン | |
ロフェプラミン | アンプリット | ||
ドスレピン | プロチアデン | ||
四環系 | マプロチリン | ルジオミール | |
ミアンセリン | テトラミド | ||
セチプチリン | テシプール | ||
SARI | トラゾドン | デジレル | |
レスリン | |||
第三世代 | SSRI | フルボキサミン | ルボックス |
デプロメール | |||
パロキセチン | パキシル | ||
セルトラリン | ジェイゾロフト | ||
エスシタロプラム | レクサプロ | ||
第四世代 | SNRI | ミルナシプラン | トレドミン |
デュロキセチン | サインバルタ | ||
第五世代 | NaSSA | ミルタザピン | レメロン |
リフレックス | |||
※抗精神病薬 | スルピリド | ドグマチール | |
アビリット | |||
ミラドール |
語句の説明
◎薬剤には「一般名」と「商品名」があります。
*「一般名」・・・化学構造などに基づく世界共通の名称
*「商品名」・・・製薬会社が独自に名付けた名称
◎薬剤の邦文訳
*SARI・・・セロトニン受容体遮断・再取り込み阻害薬
*SSRI・・・選択的セロトニン再取り込み阻害薬
*SNRI・・・セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬
*NaSSA・・ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬
*スルピリド(ドグマチール)・・世界的には抗精神病薬に分類されているが、日本では低用量で抗うつ効果を示すことから抗うつ薬としても認可されている。
いろいろな抗うつ薬の内容と特徴について
(1) 三環系抗うつ薬(TCA)
最も古くから使用されているのが三環系抗うつ薬であり、化学構造式が三環構造有することからそのように呼ばれています。TCAはセロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害する作用を有し、精神賦活作用に優れていると言われており、抗うつ効果は多くの臨床例から重症うつ病にはSSRIに比べて効果的であるとされている。
一方で、抗うつ効果は高いが、副作用も強く多彩であることから臨床での使用を難しくしています。抗コリン作用、抗ヒスタミン作用などが強いため便秘、口渇、めまいや眠気などの副作用が発現しやすい。
これら副作用で一番問題になるのは発現の時期です。主作用である抗うつ効果が出てくるのは人によっては数週間かかる場合があるのに比べて、副作用は服用して直ぐに発現してきますので、この事はよく理解しておく必要があります。また、三環系抗うつ薬はその性能から不整脈やてんかん発作のような痙攣を起こし、重篤な症状になることもあるので十分に注意する必要があります。
その後、初期の三環系抗うつ薬の第一世代薬(イミプラミンなど)に続き、抗コリン作用の弱い第二世代薬(アモキサピンなど)が開発されており、第一世代薬に比べて効果の発現が速く、副作用が少ないなどの特徴を持つといわれている
(2) 四環系抗うつ薬
三環系抗うつ薬の副作用を軽減させる目的で開発されたのが四環系抗うつ薬であり、第二世代抗うつ薬に分類されます。四環系抗うつ薬の抗うつ効果は、三環系抗うつ薬よりは軽症例への使用が推奨され、重症例での効果は物足りないとの評価がある。
一方で、三環系抗うつ薬と比べると副作用の発現頻度は低く、またその程度も軽度といわれている。
(3) SARI(セロトニン受容体遮断・再取り込み阻害薬)
SARI(トラゾドン薬)は第一世代や第二世代の抗うつ薬の中では、最もセロトニンに対する選択性が高く、セロトニンの再取り込み阻害作用とセロトニン受容体遮断作用を有し、セロトニン活性が高まると考えられている。
抗コリン作用はないが、アドレナリン受容体遮断作用があるため起立性低血圧や持続性勃起症などの副作用を発現する。ヒスタミン受容体遮断作用による鎮静、催眠作用を有する。
(4) SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
これまでの「従来薬」の第一世代、第二世代抗うつ薬(三環系、四環系)は化学構造式によって分類されてきたが、「新世代薬」の第三世代に分類されるSSRIは化学構造式の共通点は無く、作用機序によって分類されることになった。
作用機序は神経細胞のシナプス間隙で行われる神経伝達物質のセロトニンの再取り込みを抑制することによって、シナプス間隙でのセロトニン濃度を増加させ神経伝達を活発にさせて抗うつ作用を改善しょうとするものです。
「新世代薬」の第三世代SSRI,第四世代SNRI、第五世代NaSSA抗うつ薬は、「従来薬」と比べて神経伝達物質に与える影響が少ないことから、副作用や毒性が大きく軽減されたという特徴があり、現在では「新世代薬」がうつ病治療の第一選択薬になっています。
SSRIはうつ病以外にも強迫神経症、パニック障害、社会不安障害などにも効果を示すことから、精神疾患では幅広く処方されている。一方、SSRIの副作用については、消化器症状が特徴的で吐き気、嘔吐、食欲不振、便秘、下痢などが高い頻度で発現します。
また、性機能障害を引き起こす可能性があり、更には錐体外路症状を認めることがありSSRIでも振戦やアカシジアの報告があります。SSRIには次のような重大な副作用があり十分に注意する必要がありますが、この点については別途項目を改めて詳述します。
① セロトニン症候群
② アクチベーションシンドローム(賦活化症候群)
③ 減薬、断薬に伴う離脱症状(禁断症状)
(5) SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
SNRIは第四世代に属する新しい抗うつ薬で、セロトニンだけでなくノルアドレナリンの再取り込みを阻害することから、効果の面ではより三環系抗うつ薬に近い抗うつ効果を持ち、その発現はSSRI,三環系よりも速いとの特徴があり、更にSSRIにはないノルアドレナリンへの作用が有るためより意欲改善に効果が期待できる。
また、脊髄の下行性疼痛路でのノルアドレナリン及びセロトニンの活性化により身体的な疼痛緩和の効果も期待できるとされている。米国では線維筋痛症や神経因性疼痛の治療薬として承認されている。
日本ではサインバルタ薬が2012年に糖尿病性神経因性疼痛に対して効能が承認された。副作用ではセロトニン受容体に対する作用からSSRIと同様に、吐き気、嘔吐、便秘、下痢などの発現頻度が高く、また尿閉は特徴的な重大な副作用で、尿量減少や排尿障害が出たときは服用を中止する。
また、ノルアドレナリン量の増加に伴い高血圧や心疾患の患者さんは服用に注意する。
(6) NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)
SSRIやSNRIはモノアミントランスポーター阻害作用により、セロトニンやノルアドレナリンなどのモノアミン濃度を高めることで抗うつ効果を発揮しているが、このNaSSAはこれらと作用機序が異なりトランスポーターを阻害しないで、セロトニンやノルアドレナリンを増強させる作用を有する。
現在、抗うつ薬の第一選択薬はSSRI、SNRIが使用されているが、このNaSSAは作用機序が異なる薬剤であるため第一選択薬からの単剤治療も可能であり、第二選択薬として切り替え薬としても有効と考えられる。
NaSSAは,抗うつ作用はSSRIと同等位、四環系抗うつ薬のテトラミドと同様に鎮静作用が強いことから、1日1回就寝前に服薬するとされている。また、SSRI,SNRIは効果発現まで最低2~3週間は必要とされているが、NaSSAは1週間程度で効果が出てくるといわれている。
副作用について、SSRIとSNRIと共通して消化器症状が特徴で、特に便秘の出現率が高いといわれています。動悸とめまいがSNRIと同様に見られます。NaSSAで特筆すべきは口渇、倦怠感、傾眠であり、口渇は三環系抗うつ薬と同等の強さを示し、倦怠感や傾眠はSARIのトラゾドンに似ている。この傾眠の強さ(眠気より強く、意識しなければ眠ってしまう状態)を利用してうつ状態の不眠の改善に使われることもある。
(7) スルピリド(抗精神病薬)
世界的には抗精神病薬に分類されていますが、日本では抗うつ効果が認められるとの認識で抗うつ薬としても承認されています。うつ病に対しては軽症例で効果的とされています。
スルピリドは主にドーパミンの動態に影響を及ぼすことは分かっていますが、現在もはっきりとした作用機序は明らかではない。臨床的にはスルピリドはその用量によって異なった特性を示します。
低用量(1日およそ300mgまで)では抗うつ効果を示し、高用量(1日300~600mg、最大1200mg)では統合失調症の症状に効果を示すという特性です。実際に臨床の現場でどのように処方されているかは、はっきりと指針を示しているものは無いので、医師が経験などに基づいて処方しているのが実情です。